Tシャツと学生時代といえば、私は大学2年生の夏を思い出す。仲の良い友人と二人で北九州へ旅行に行ったのだ。
学生だからお金はない。だから北九州に行くのに飛行機を使うなんてもっての外だ。
電車を使うにしても新幹線や特急は使えない。ひたすら鈍行列車を乗り継いで向かうのである。
泊まるホテルも格安のものを選ぶ。もしくは野宿で済ませる。さいわい時期は真夏であったから、外で寝るにしてもジーンズとTシャツで事足りるのである。
私たちが北九州に向かった理由は、二人とも関東の出身で、大学も東京にあったから、遠い南の地を見てみたいというものであった。
しかし、それは建前であって、本当の理由は二人が共に狙っている同級生の女子の帰省先に遊びに行くことが目的だった。
それについては二人ともおくびにも出さなかったが、こんな汚いTシャツ姿で彼女はちゃんと出迎えてくれるだろうかと二人とも心配して、話には出していた。
初日は東京から東海、関西を抜けて、広島で一泊した。手頃なホテルが見つからず、神社の裏で寝ることになった。
次の日、始発列車に乗って、彼女の住む北九州・福岡へと向かった。着替えもほとんど持ってこなかったので、すでにジーンズとTシャツは汗臭くなっていた。
きれいな服は彼女の前で、と二人とも決め込んでいたのである。
そしてとうとう福岡に到着した。そこで彼女の実家に訪れたときに、私たちは思いもよらなかった結末を迎えた。
インターホンを押して出てきた家族が、娘はもう大学の寮に戻ったわよと私たちを見るなり言ったのである。
私たち二人はしばらく茫然とした。そのあと、私たちは仕方なく近くの温泉旅館に泊まって、翌日帰路についた。
あれから10年近く経つが、夏が来るたび、彼女の家族に衝撃的な事実を告げられた時の感覚とTシャツの汗ばんだ匂いを思い出す。